『イラついてんのか?』
「何だ急に」
『いつもより運転が荒い』
「この街じゃこれが普通だって言ってんだろ」
『2回も角を曲がり損ねてるし、いつもはダラダラ残業してるのに定時帰りだし、ニキビが2つもできてるし、あと』
「何だよ」
『屁が臭い…窓を開けろ』
「彼女と喧嘩したんだよ」
『何で』
「言いたくねぇ、株が下がる」
『もう倒産寸前だよ』
「これを言ったら倒産する」
『ずるずる負債を残すより自己破産した方が良い時もある』
「……彼女に聞いたんだよ」
『何て』
「お前とのセックスを思い出して自慰するのと、AV観て自慰するの、どっちがいい?って」
『…………』
「ちょうどそんな顔してたよ」
『ひょっとして人間一回目か?』
「俺の前世は芸術家だよ」
『死因はきっと梅毒だな』
「いやでも冷静に考えてみたらおかしくねえか?!」
『落ち着け、それはたぶん冷静になってない』
「いやいやいや、9年も付き合ってる彼女のこと思い出しながら自慰するってめちゃくちゃピュアやんけ!」
『実際はどうなんだ?』
「前者だよ」
『……』
「ちょうどそんな顔してたよ、って何でだよ!!!照れろや!!!!」
『セックスしろよ』
「週末まで我慢なんかできねえ」
『だからニキビができるんだよ』
「ていうか頭にきてんのはその後だよ!!!!あいつ何て言ったと思う?!」
『何て言ったんだよ』
「自慰すんな!!!!ってよ」
『あー』
「だろ?」
『まあ』
「右手ぐらい自由に使わせろってんだ」
『という惚気ですね』
「惚気じゃねえ!喧嘩だ!いやもうこれは戦争だね!戦争!」
『仲直りの条約は締結したか?』
「セックスした」
『……』
「終わった後にちょうどそんな顔してたよ」
『もうすぐボーナスだな』
「…ボーナスは使わん」
『浪費家のくせに、また何で』
「結婚資金を貯めないとな」
『……』
「何だよ」
『意外だなと思って』
「9年だぞ?遅すぎるくらいだ」
『そうだな』
「お前も早く結婚しろ」
『まぁ、いずれな』
「ハッ、いずれなんて言ってる奴はいつまで経っても行動に移さねえんだよ」
『早く漫画返せよ』
「安いフリには乗らんよ、俺は」
『何なら乗るんだよ』
「彼女の上とRX-8」
『………』
「そんな顔をしそうだな、あいつも」