長いお盆休みも終わってみるとあっという間
寂しさに苛まれないようにわざとアップテンポな曲を聴きながら、現実行きの飛行機を待つ
搭乗ロビーのテレビには甲子園の準々決勝が映されている
もうベスト8か、夏も終わりだなと思ったりする
昔は夏の終わりなんかどうだってよかったし、終わることを意識したりなんかしなかった
暑いならそれは夏で、暑くなくなったら秋が来たってだけの話
いつの頃からか、夏は終わりばかりを気にするようになった
デパートの屋上のビアガーデンで肌寒さを感じた時
コンビニでスイカ味のグミが売られなくなった時
そんな時ばかり気にして、肝心の夏真っ盛りはいつも疎かにしてしまいがちだ
いつだったか、何かの小説で登場人物が放った一文を思い出す
夏の暑さは秋風を楽しむために、冬の寒さは春の暖かさを噛み締めるためにある
まるで夏と冬は只の苦行のような表現で当初は笑ってしまったものだが、あながち間違いじゃ無いなと今は思う
お盆が終われば現実へ戻る虚しさを感じることなんて誰もが分かっているのに、それを拒絶しようとはしない
いつかは終わりが来ることを知っていたって、始めることを躊躇する人間はそういない
始めるために終わるということは特別だけど普遍的だ
とか何とか言っているけれど、現実を始めるために非現実を終わらせることはやっぱり辛い
一足先に現実へ足を踏み入れた友人はこう言っていた
「お前、それがエモってやつだよ」
現代語ってのは便利なもんだ
得体の知れない浮ついた感情も、たったカタカナ2文字で片付いてしまう
『これがエモ、ねぇ…』
搭乗ロビーにいない友人に向かって、小さく応える
ANAxxx便、現実行きのお客様、当便は到着遅延により、搭乗が15分ほど遅れます、ご了承ください
現実ならいくら行き遅れても構いやしないな