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彼女はPSR神良美砂

100の質問

13. 好きなアプリは?

 

A. パワプロ

 

好きなアプリとは一体何だろうか。

 

例えば、「これが無くなったら生きていけない」という意味での好きなアプリならばどうだろう。そのような定義だと、恐らく回答は生活必需品のようなものになるだろう。

 

しかし、生活必需的アプリケーションというのは、必ずしも好きなアプリではない。

 

 

例えば、床下は毎日の目覚ましをiPhoneの時計アプリに委ねている。

 

 

5分おきに自分が最も起きられる騒音アラームを設定し、寝坊が無いよう細心の注意を払っている。このアプリが無ければ床下は毎日寝坊をかまし、研究室に遅刻し、指導教員に叱られ、毎晩目を閉じることに恐怖を覚える人間になってしまうだろう。

 

 

だが別に時計アプリは好きではない。

毎朝Jアラートに勝るとも劣らない不快な音で床下の安眠を妨げるこいつは、どちらかといえば嫌いだし、無くなってもらって構わない。

 

 

が、やはり無くなられては困る。

 

 

しかし(逆接が多くてすいません)、万が一無くなれば昔使っていたくまのプーさんの目覚まし時計を使えばいい(中学時代ふにゃついたあの声にムカつきベランダから放り投げて以来ドスの利いたサウンドになって怖いのでできれば使いたくない)。

 

 

要は時計アプリなどいくらでも替えがきく。

好きなアプリというのそういうものではない。

好きなアプリはあくまでも嗜好品であり、タバコや酒と同じようなものだ。この世から無くなってしまっても大した問題ではないが、無いなら無いでつまらないもの。

 

 

つまり時計アプリとは丸っきり正反対のものだ。

時計アプリは客観的に見れば必要で、主観的に見れば不必要なもの。好きなアプリは、その全く逆のものだ。

 

 

好きなアプリとは、考えなしの人間がよく口にする「あ~、恋人欲し~」の「恋人」のようなものなのだ。

 

 

このセリフにおける「恋人」とは、(誰でもいいから自分のことを愛してくれて好きな時に甘えられる都合の良い顔がタイプの)という目に見えない括弧が頭についている。

 

 

こういうセリフを吐くやつは大抵Base Ball Bearの「そんなに好きじゃなかった」

Base Ball Bear - そんなに好きじゃなかった - YouTube

という曲の歌詞に出てくる女のような性根の悪さを持っているのだ。

 

 

 

 

こんなに好きになっちゃった

恋愛ってワンダー すべてがきらめいて見えるよ

ついに僕の人生も始まりました

どうしようもなく、好きになっちゃった

こりゃたぶん母さん 僕たち一緒になるよ

孫もそう遠くはない将来見せられるよ 親孝行もしなきゃだな

 

…っていうのがほんの半年前

電車乗り換えるようにフラれました

花は枯れ 色は褪せ 僕は荒れ 世界は滅びました

 

さよなら寸前 どこがダメだったのか聞いたよ

「特に不満もないし、イヤな所もないけどなんていうかさ…

 

「そんなに好きじゃなかった」

悲しみのサンダー そんな理由って存在するの?

目からウロコも涙もじゃんじゃん落ちてきた

もう一回言うと、「そんなに好きじゃなかった」

それを言うか?! 僕は一体何だったの?!

『結婚しよう 犬と子供としあわせに暮らそう』とか言ってバカか!

あー女って何だ?!あー女って何だ?! あー女ってさ、何なの?!

とりあえずコンビニで缶ビールでも買って ヤスヒロとマナブも呼ぼう

明日も頑張ろう…

 

 

 

 

床下は大学においてこのようなセリフを吐く人間を男女問わず尽く駆逐してきた。

飲み会で誰かがこのセリフを口にしようものなら、グラスに入った酒を飲み干し、相手に正座を強要し、「貴様のような人間に他人を愛する資格は無い、クニの両親に頭を垂れ、泣いて詫びろ」と小一時間説教し、何とも言えない雰囲気で解散させてきた。

 

 

 

だが一度だけ、予期せぬ展開が床下に襲いかかったことがある。

学部の同期が集まる飲み会でのことだった。

 

そこには付き合いの長い異性の友人(天海祐希みたいな顔なので天海さんと称します)がいて、たまたま席が隣だったため長々と話していた。

その時、天海さんの口からあのセリフが出た。

 

 

「あ~、恋人欲しいな~」

 

 

と。

 

 

 

その瞬間床下の眼光は鋭く光り、木村拓哉ばりに「ちょっと待てよ」と会話を止め、上述したようなセリフを天海さんに打ち込みまくった。

 

 

通常の場合、床下のこのような行為は相手が笑ってやり過ごしてくれる。

床下の急激な変貌、普段からは想像できない口数の多さ、持論の癖の強さから、相手は笑うことしかできない。

そして大抵の人間は笑った後に「いやあ、でもよく考えるとその通りだ」と納得してくれる(いなされてるだけかもしれないが)。

 

 

 

だが、天海さんは違った。天海さんは床下の言葉を聞くほどに顔から笑顔は消え、俯きがちになり、最終的には涙を流してしまった。

 

 

 

 

これはどういうことだ。

 

 

 

 

そんなに心に刺さったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

普段から床下と接しているのだからこういう性格なのは分かっているはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

と疑問に思っていると、別の友人が床下を外に連れ出してこう言った。

 

 

 

 

 

「あいつ、お前のこと好きなんだって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってしまった ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えなしの発言かと思いきや、そこそこ練られた作戦だったとは...。

 

 

 

 

床下に「付き合おっか?」もしくは「好きな人でもいるの?」と言わせるストラテジーだったとは...。

 

 

 

 

 

 

その時の床下の気持ちは、耳をすませばで腐れ縁の野球部員”杉村”に告白される主人公”月島雫”そのものだった。爬虫類なみに鈍い。

 

 

床下は何とかフォローしようと席に戻ろうとしたが時すでに遅し、天海さんは退席していた。その後も何度か謝罪会見の場を設けてもらい、形式上許しを得たのだが、結局雰囲気は気まずいまま最高学年である現在まで来てしまった...。

 

 

 

その時から異性があのセリフを吐いた場合に限り、「え、床下と付き合う?」と聞くようにしている(改善の仕方がバカ正直すぎるからやめろと友人たちからは止められている)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ええと、いやいやこんな話をする回ではなかった。とにかく、好きなアプリというのは上記で定義した「恋人」と同じぐらい自分のエゴだけで決めるものということだ。

 

 

 

 

その場合床下は間違いなくパワプロだろう。

パワプロの醍醐味は何と言ってもサクセスだ(いや、ペナントだろと思う人はその気持ちを堪えてくれ)。

 

サクセスとは、自分が野球部の一員(高校、大学、社会人と作品ごとに舞台は違う)となって全国大会優勝を目指すモードだ。

 

主に練習・休息・遊び・デートのいずれかのコマンドを自分の体力を鑑みながら選択し、得られた経験値を能力(打力や走力や球速など)に割り振っていく。

 

時にはランダムで発生するイベントも存在し、選ぶ選択肢によって得られる経験値の種類や量が変わってくる。

 

そしてこのモードは、彼女の存在がめちゃくちゃ重要だ。

どの彼女キャラを選択するのかはもちろん、クリスマスやバレンタイン期間前に彼女キャラを彼女にすることは界隈の中では鉄則である。

 

彼女キャラをいれた場合の方が、大体選手も強くなる。

 

つまりこのゲーム内においてカースト最上位は、全国大会優勝彼女持ちという超絶リア充なのである。だから床下はサクセスをやっているとき、いつもこう言っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、恋人欲し~」